事業用不動産賃貸借での「権利金」について
「権利金」とは何か
「権利金」とはいったいどのようなものなのでしょうか。ここではその言葉の定義や法的な性質、税務上の取り扱いを見ていきます。
【権利金の定義】
権利金とは、不動産の賃貸借契約を締結する際に、賃料以外の金銭を賃借人が賃貸人に支払う金銭のことです。
【権利金の性質】
権利金は、国税庁では「権利の設定の対価」としています。具体的には何の権利の対価として設定されているのでしょうか。
一般的に、権利金は立地上有利な不動産を借りることで得られる利益に対する対価であると言われています。駅前の一等地や人気の高い商業施設のそばの立地などは集客がしやすく、事業で利益を上げやすいという利点があります。そういった「利益」に対する対価が、権利金の性質の一つだと考えられます。
また、事業用の不動産の賃貸借契約の場合、事業という性質から契約が長期化することが多く見受けられます。その上、借地借家権は契約期間終了時に貸主に正当な理由がなければ契約の更新を断ることができません。こうした貸主にとっての貸借上のリスクに対する対価としても、権利金の性質の一つであると言えます。
【権利金の税務上の取り扱い】
法人が支払った権利金は、支出の効果がその支出の日以後1年以上におよぶ場合、「繰延資産」として取り扱われます。繰延資産の償却期間は下記のようになります。
・建物の新築に際して支払った権利金などで、その金額が建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、その建物が存続する間は賃借できる場合 → 建物の耐用年数の10分の7に相当する年数
・建物の賃借に際して支払った上記以外の権利金などで、契約や慣習などによって、明渡しのときに借家権として転売できることになっている場合 → 建物の賃借後の見積残存耐用年数の10分の7に相当する年数
・上記以外の権利金などの場合 → 5年(ただし、契約による賃借期間が5年未満の場合で、契約を更新するときには再び権利金などの支払いをすることが明らかであるときはその賃借期)
なお、賃貸人側の権利金の処理は、将来返還しないことが確定している場合は、契約時に「収益」として計上します。
※出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/)
権利金と敷金・礼金などの比較
【権利金と敷金】
敷金は、不動産賃貸借契約において、未払い賃料や退去後の原状回復義務などの債権に対する担保として、賃借人が賃貸人に支払う金銭を指します。敷金の性質上、賃貸借契約が終了したときに未払い家賃がなく原状回復費用が不要の場合、賃貸人は敷金を賃借人に返還する必要があります。通例、居住用物件の賃貸借契約で多く見られます。
一方、権利金は基本的に返還されない金銭ですから、敷金とは「返還義務」といった点で相違点があると言えます。
【権利金と礼金】
礼金は、その名前の通り、賃貸借契約が成立したことに対する「お礼」として、賃借人から賃貸人に支払われる金銭のことを指します。扱いが「お礼」なので、これも賃貸人からの返還はありません。その点で礼金は権利金と似通った性質があると言えます。
権利金と礼金の相違点は対価の有無にあると言えます。礼金は「お礼」として支払う金銭ですので、なにかしらの権利との対価性はありません。ですから、そもそも返還される性質を有していない金銭ということができます。
対して権利金は、立地上の利益などなにかしらの「対価」が存在するため、個別的なケースでは返還義務が生じる可能性があります。
権利金が返還されるケース
原則的に、権利の対価である権利金には返還義務はありません。しかし、権利金には対価としての性質がある以上、なにかしらの特殊な事情が発生した場合には、賃貸人は賃借人に権利金を返還するケースがあると考えられます。
具体的には、契約期間があらかじめ定められている賃貸借契約の場合、賃貸人の一方的な事由で賃貸借契約が途中解約されるようなケースであれば、未経過の期間の部分の権利金は返還されると考えられます。理由としては、通常権利金は、賃貸借契約の期間に応じた設定がなされていますので、未経過の部分に関して賃借人は相当分の利益を享受していないとみなされるからです。ただし、期間に定めのない賃貸借契約の場合は、未経過の期間の算定ができないため、権利金は返還されることはありません。